会社の就業規則に競業避止義務の規定が… 退職後フリーランスとして独立できる?

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会社の就業規則に「退職後、競合他社への転職は3年間禁止」との規定がある場合、フリーランスとしての独立は可能なのでしょうか。  

会社の就業規則に競業避止義務の規定が…

退職後フリーランスとして独立できる?

退職後に負う競業避止義務について解説していきます。

退職後に競業避止義務を負う場合は?

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原則として退職後は自由!

勤めている会社で、その業務内容についてのノウハウを学び、自分の知識や技能として生かしていくことは、一般になされていると思いますし、キャリアアップには不可欠といえるでしょう。   

そこで、そのような考え方からすれば、退職後に従業員が熱心な労働の結果身に着けた知識や技能をその後のキャリアに生かしていくことは否定されるべきではなく、原則としては、退職後には、在籍していた会社との関係を気にせずに自由に働くことができるというべきです。   

そのように考えるのが、憲法で規定されている職業選択の自由にも則します。

例外的に競業避止義務を負う場合が…

もっとも、どのような場合にも自由に働くことができるわけではありません。   

「本業のクライアントからの仕事を副業で受けてはいけない?」の記事でも述べたとおり、一定の条件下においては退職後も在籍していた会社に対して競業避止義務を負う可能性があります。   

裁判例で考慮されている要素としては、以下のようなものがあります。

①就業規則等で合意していること

最高裁は、就業規則等で明確な合意がない場合には、元従業員による競業が、元勤務先の営業秘密等の情報を用い、元勤務先の信用を貶めるなどの不当方法で営業活動を行ったような社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元勤務先の顧客を奪取したと認められない場合には、損害賠償責任を負わないとしています(三佳事件・最判平成22.3.25)。  

したがって、就業規則等での合意がない場合における規制には消極的であるといえます。

②競業避止義務の生じる期間が定められていること(1~5年程度)

③地域・対象職種・代償措置の有無<

たとえば、同じ市内での営業のみを制限し、市外や他県での競業は制限しないという定めなど、元従業員の負う競業避止義務の程度がより小さく定められている場合には、会社が規定する退職後の競業避止義務が有効なものとされやすくなります。

競業避止義務を負わす職種をより細かく分けている場合、例えば、単に「コンピュータプログラムの作成」と広範囲に指定するのではなく、「ネットバンキングのプログラム作成」などとより狭い範囲に競業避止義務が生じる職種を定めている場合にも、退職後の競業避止義務が有効なものとされやすくなります。  

また、退職にあたって、通常より多額の退職金が与えられている場合には、退職後の競業避止義務に見合った代償がなされているとして、有効なものとされやすくなります。

④営業秘密の利用の有無

従業員が使用者の保有している特有の技術や営業上の情報等を用いることにより実施される営業が競業避止義務の対象となるのであって、それ以外の職務により習得したごく一般的な業務に関する知識等を用いる業務は競業避止義義務の対象とはならないとされた裁判例があります(アートネイチャー事件・東京地判平成17.2.23)。

本件ではどうか

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1. 本件では、「退職後、競合他社への転職は3年間禁止」という就業規則が定められている場合であり、前述の条件①がある場合です。   

この点、就業規則では、「競合他社への転職」が禁止されているのであり、フリーランスとして独立する場合は直接の文言には含まれないような気もするかと思います。   

もっとも、この点が法律の難しいところといえますが、法律を考えるときに重要なのは、表面上の文言だけではなく、その規定が定められた趣旨(目的)です。

今回の就業規則が定められた趣旨が、顧客情報や詳細な商品の販売方法、人事管理の在り方など在籍していた会社の営業秘密に当たりうるような重要なノウハウを守ることにあるのであれば、元々存在する他の会社に移籍して競合する業務を行うのも、独立して競合する業務を行うのも実質的には同じであり、規定の定められた趣旨にあたるものと考えられます。   

考え方が割れるところではあるかと思いますが、直接の文言にあたらないからといって安心することはできません。   

その他、実際の判断は、上記②③④といった他の事情に影響されるところではありますが、今回のフリーランスとしての独立が就業規則に反する可能性がないと言い切ることはできないと思います。

 

2. では、独立した後に元々在籍していた会社とトラブルにならないようにするためにはどのようにするとよいのでしょうか。   

上記のように、退職後にまで生じる競業避止義務はあくまで例外的な場合に限られると考えるべきであるとすれば、そのような競業避止義務は、もっぱら両者の合意に支えられている義務であるといえます(この点、在職中の競業避止義務は、従業員としての当然期待される信義則によるものといえます。)。   

そうだとすれば、就業規則にそのような規定があるとしても、それに反する特別な合意、例えば、退職時において、会社の責任者との間で退職後の競業避止義務がないことを確認した覚書などがあれば、退職後に競業避止義務を負うことはないといえます。   

会社とそのような覚書等を作成できる関係性にある場合には、リスクマネジメントとしてそのような覚書を作成しておくと安心でしょう。

まとめ

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退職を機に、元々在籍していた会社との関係性が悪くなり、競業避止義務に関係するトラブルが生じることは多々あります。  

将来的な独立を考えている方は、退職前に就業規則等を確認するとよいでしょう。

【執筆者】
楠瀬 健太(くすのせ けんた)


中央大学法学部を卒業後、一橋大学法科大学院を経て、弁護士に。神奈川県下最大規模の弁護士数を誇る横浜綜合法律事務所に所属。労働問題を始めとする民事全般 から刑事事件まで幅広く取り扱っております。難しく思える法律をできる限り分かりやすくお伝えいたします。


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横浜綜合法律事務所